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三上山物語

Vol. 04 031〜040



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031

 ■田霧

掲載日:2009.01.28

  野洲市木部
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 何となく分かるようで、それでいてきっちり予測できないのが霧の発生である。だから前の晩から、明日はどこそこへ霧を撮りに行こうという予定は立てられない。当然行き当たりばったりということになる。この日も薄明時、遠くの灯りがにじむ「霧の予感」だけで車を走らせた。ある田圃には出ていて、すぐ隣の田圃には出ていないということがあるから、よけいやっかいである。前景を求めて、右往左往しているうち、すぐに明るくなってくる。
 三脚をセットして、シャッターに手をかけたとき遠くからお寺の鐘が響いてきた。時計を見ると6時ジャスト。ちなみにこの日の「日の出」は6時8分。霧の中、点々と街灯の明かりが消え残っているのがご覧いただけるだろうか。
Wikipediaによれば、「視程が1Km以上で、人間の視線の高さより低い地面付近にのみ霧があるものを地霧という。こちらは気象観測上、霧には含めない」とある。なんとまあ面倒な話、これ霧と違うの?。   目次へ戻る



032

 ■風走る

掲載日:2009.02.04

  大津市木戸
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 国道161号、びわ湖バレイ入口の少し北に「清林パーク」という公園がある。奈良時代、相撲界で現在の横綱にあたる最手役として活躍し、相撲の四十八手の基礎を創案したとされる行司の祖・志賀清林にちなむという。そこから志賀聖苑への道を高台へと登ると、この風景が見えてくる。カメラの背後すぐ上が湖西道路である。
 よく晴れた冬の日の昼前、湖面を風が走るのだろう。それにつれて光がつつッと動く。見ていてあきない風景である。ところでこのように日中湖面がキラキラ光るのは、太陽が低い冬場独特のものである。夏は太陽が高く思ったようには光らない。そういう意味で冬のこの輝きは一つの風物詩であるといえる。
 三上山の右後方、なだらかな稜線が続く。その中の一番高い山が、修験道の山・飯道山である。次回はその飯道山山頂からの眺め。いかが相成りまするやら、お後がよろしいようで。   目次へ戻る



033

 ■比良を背に

掲載日:2009.02.11

  甲賀市飯道山山頂
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 飯道山・664m。甲賀市水口町と信楽町の境に位置する。湖西側から見ると、なだらかな山容に見えるが、近づいてみると起伏に富んだ、いかにも修験道の山という感じがする。水口町側からも、信楽町側からも登山道は完備しているが、今回は信楽の宮町、ゴルフ場横からの道をとった。麓から頂上まで、ゆっくり登って1時間弱だった。
 登り着いて、あっと息をのむ。北アルプスかと見まがう雪の比良山系、想像以上の眺めだった。10年前にはもっと楽に見えた記憶があったが、木が伸びたのだろう、今回は三脚の場所に苦労をした。
 三上山の右上一番高いところが武奈ヶ岳。画面左端雪の多いピークが蓬莱山。びわ湖バレイの斜め線の下端、直ぐ右側が、前回「風光る」の撮影場所・清林パークである。比良山の麓に琵琶湖が横たわる。三上山の手前に相似形の菩提寺山が重なっているのだが、写真では判別しにくいかも知れない。   目次へ戻る



034

 ■春待桜

掲載日:2009.02.18

  近江八幡市加茂町
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 県道2号・大津能登川長浜線を野洲から近江八幡へ向かう。日野川を越え加茂バイパスを過ぎたあたり、両側に広がる田んぼのなかで、一直線に延びる桜並木とクロスする。ムギが伸びヒバリがさえずる春の日など、並木沿いの道に降り立つと、車中FMで聴いて来た田園交響曲の余韻が感じられる、そんな雰囲気のところである。
いまは冬、断続的に降った雪の翌日。我が家の近くでは、屋根がうっすら白くなる程度だった。そんな中を、ひょっとして…と、やって来たこの場所。案の定というか、思いの外というか、こちらでは田んぼが一面真っ白だった。
 ここは近江八幡市加茂町。岡山小学校の近く。桜並木の起点である。それは農業用水路に沿って行けども行けども、延々1.3Kmに及ぶ。最近、木が大きくなり、花の時期が楽しみになってきた。全部で何本あるのか勘定しようと思いつつ、未だに果たしていない。   目次へ戻る



035

 ■水鳥遊ぶ

掲載日:2009.02.25

  高島市勝野
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 北上する国道161号が、白鬚神社の少し北で大きく岬を曲がる。それまで見えていた三上山が後へ去り、道は湖岸から離れて行く。ここが国道から山全体がきっちり見える最北地点である。
 道路沿いに「北方探検の先駆者・近藤重藏終焉の地」との記念碑が建っている。近藤重藏、江戸末期、蝦夷・千島を探検。最上徳内とともに択捉島に「大日本恵土呂府」の木柱を立てる。晩年長男富藏の町民殺害に連座して近江国大溝藩に蟄居、当地で没。久保田暁一著、『波濤』(サンライズ出版)に詳しい。
 記念碑横の地下道をくぐって湖岸へ出る。写真はそこから見た白ひげ浜である。冬の水泳場は静か。砂浜のカーブに沿ってゴマを振りかけたように水鳥が浮かぶ。ここは三上山から見てほぼ北に当たり、正午前後の湖面がキラキラ光る。
白鬚神社の鳥居は、岬の右奥に隠れて見えない。   目次へ戻る



036

 ■西の湖暮色

掲載日:2009.03.11

  八幡市安土町下豊浦
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 西の湖、琵琶湖最大の内湖である。昨年(2008年)11月、長命寺川とともにラムサール条約湿地に登録された。すでに登録されていた琵琶湖エリアを拡大する形で認定されたという。ラムサール条約とは、1971年にイランのラムサールで開催された「湿地及び水鳥の保全のための国際会議」において「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」として採択されたものである。
 西の湖といえばヨシ、その群落は西の湖総面積の約半分に及ぶとか。「豊葦原の瑞穂の国」と古事記にもあるように、古くは「アシ」と呼ばれていたが、「悪し」に通じるところから、「ヨシ」に転化したという。当然ヨシとアシは同じものである。ところが一方で、両者別物説をとなえる人も。これについて田園空間センターのNさんは、「ヨシ・アシ別だという人は、ヨシに混じって生えるオギをアシといってるのだろう」という。
 夕焼け空に湖面が映える。   目次へ戻る



037

 ■長命寺川浅春

掲載日:2009.03.18

  近江八幡市北津田町
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 西の湖とともに、ラムサール条約湿地に登録された長命寺川である。西の湖と琵琶湖をつないでいる。
 『近江与地志略』によると、…奥島村、北庄の北西にあり。地続きにあらず。葭沼ありて隔たる…とある。また、…渡会橋、北庄村より奥島村へこゆる橋なり。長さ五間ばかりの板橋なり…とも。
 長命寺山と八幡山、かつてはそれぞれ琵琶湖に浮かぶ島だったという。いまはすべて陸続きに見えるが、たとえば長命寺、地図を詳しく見ると、どちらからどのルートをとろうとも橋を渡らずには行けない。かつて「地続きにあらず」といわれたヨシ沼は長命寺川となり、「五間ばかりの板橋」は、水門を併設するりっぱな渡会橋に変わっただけで、やはり島なのである。いま、その川を水郷巡りの遊覧船が往き来する。
 渡会橋から堤防上の道を南に向かうとき、眼前の山かげから、三上山がひょいと顔を出す。印象的な場所である。   目次へ戻る



038

 ■春はあけぼの

掲載日:2009.03.25

  野洲市野洲
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 「春はあけぼの」…という。さて、あけぼのとは。よく似た言葉に暁、黎明、朝ぼらけなど。類語辞典を調べると、こんなのはの序の口。「しののめ」なんてものもある。古い昔、篠竹を荒く組んで明かり取りにしていたころ、「篠の目」から朝日が差すことから、夜明けそのものをさすようになったとか。…なるほど、そういうことか。しかし、なぜそれに「東雲」の字を当てるのか、そこが分からない。高校で古典をサボったつけである。
 「やうやうしろくなり行く山ぎはすこしあかりて」…朝の空は、日の出30分ほど前にいったん赤く焼ける。私は勝手にそれをあけぼのと決めた。太陽はまだ地平線下、あたりは薄暗い。さーて露出は…?いろいろ試したが、結局オートがぴたりだった。
 「むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる」…無理をいうなよ、清少納言さん。相手は雲だよ…。心配なら前の晩にお祈りするの。「東雲さん、出てきてっ!」と。   目次へ戻る



039

 ■桜づくし

掲載日:2009.04.01

  野洲市南桜
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 三上山の南南東約2.4Kmに菩提寺山がある。三上山はいわずと知れた近江富士、菩提寺山は甲西富士とも呼ばれるが、古くは桜山とも呼ばれていたとか。両者の間の平地を横切って大山川が東西に流れており、その北側が北桜、南側が南桜と呼ばれている。大山川沿いの公園が「さくら緑地」、その隣の墓地が「さくら墓園」。
 三上山のふもと、北桜に若宮神社、一方、菩提寺山のふもとには野蔵神社があって、こちらは南桜。両方ともコノハナサクヤヒメ(木花咲耶姫)という女神を祀っている、両地の地名もこの女神の名にちなむという。姫の父の名が、オオヤマツミ(大山祗)の神。これまた大山川と同定される。そしてさらに木花咲耶姫は富士山本宮浅間大社に祀られているというのだから話が合う。
写真は「さくら緑地」の一角から見た花に埋もれた三上山。近くの花緑公園の桜も最近とみに有名に。以上、2009桜づくし。   目次へ戻る



040

 ■ポプラ立つ

掲載日:2009.04.15

  草津市下物町
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 「ただ一面に立ちこめた/牧場の朝の霧の海…」 ここへ来ると私はいつもこの歌「牧場の朝」を思い出す。草津市烏丸半島ハス群生地である。7月下旬からお盆前にかけての開花時には、暑い時期にもかかわらず大勢の人でにぎ合う。もちろんここは牧場ではない。この風景が牧場の朝とつながるのは、その後に続く歌詞である。「ポプラ並木のうっすりと/黒い底から勇ましく/鐘が鳴る鳴るかんかんと」。この裸木が、三上山と並ぶ風情が何ともいえない。
ポプラというと、近江八幡市水茎町の県道沿いの並木を思い出す。一直線数100mに渡って連なる様は見事である。しかし、ある年の台風で木が傾き、すべて上半分が切り払われ、一時悲しい姿になった。
 写真のポプラは湖岸道路山賀パーキングに植えられているものだが、琵琶湖からの風も強かろう。ある日、気がついたら、下半分だけが残っていたということがないよう願っている。   目次へ戻る





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