００．このとき越えた大分水嶺
地図００-０５Ａ．（磐越西線・沼上トンネル～関越トンネル）前半
大分水嶺というと県境沿いというイメージが強い。しかし板谷峠の南方、福島県に入るあたりから、同県を東西に分けて縦断する形になる。今ここは猪苗代湖の北東、磐越西線・沼上トンネルを越えたところである。あとしばらく栃木県との県境・三本槍で、福島・栃木の県境に達するまで、福島県内を東西に分けて南下する。
そのあと、栃木・福島県境をたどるが、結果的には、私は栃木県には縁がなかった。一度だけ、日光・中禅寺湖までは行ったが、大分水嶺には程遠いところで終わっている。結局、栃木・福島県境は、地図を頼りにたどる以外何もない。このあと、私が実際に訪れた大分水嶺は、群馬県と新潟県の境、それも長野間に近い”関越トンネル”ということになる。本稿では、大分水嶺の南側が栃木県に当たる区間を地図でたどることにする。
上の地図は、いままでは当該の地点を黒つぶしで示していたが、本稿は”０５磐越西線・沼上トンネル”から”０６関越トンネル”までの間の「大分水嶺」のレポートという意味で、黒つぶしに当たるポイントはない。
１．大分水嶺の流れ
地図０１.福島県横断・後半１／御霊櫃峠・三森峠
左の地図を見る前に、前項で扱った地図０２を確認しておこう。郡山市と猪苗代町の市町境を南下してきた大分水嶺が、磐越自動車道・国道４９号・磐越西線の３本をまたいで、それらの南側へまでてきたところである。これら３本は、ご覧のようにすべてトンネルで分水嶺の下を抜けている。
そのあとも大分水嶺は、市町境に沿って南下する。が、ここでちょっとした問題が発生する。うっかり今までの市町境に沿って行くと、いつの間にか西へ折れて猪苗代湖へ出てしまう。出ること自体が間違いというわけではないが、それをさらにたどり続けると対岸へ出て川に沿うようになる。大分水嶺の大前提は”川をまたがない”のだから、川に出会った時点でアウト。結局、市町境が西へ曲がりだす前に、１つ東の尾根へ乗り換えることをやらなければならないことになる。それが地図０１Ａである。図中、Ｐ点からＱ点へのトラバースである。そして、Ｑ点からは郡山市内の湖南町と逢瀬町の境の尾根をたどって南下を続ける。
それともう一つ。上述したように、磐越西線・沼上トンネルとクロスしてから、次の出会いは関越トンネルになる。その間は全く足跡なし。地図をたどるだけである。
a. 御霊櫃峠
”ごれいひつとうげ”と読むのかと思っていたら、「ごれいびつ峠」と濁るのだそうな。
Wikipediaによると、ーーー郡山市湖南町と逢瀬町の境にある峠だと。峠の両側、それも大分水嶺ということでちょっと想像ができないが、標高が８７６ｍ。私が住まいする琵琶湖周辺の山でいえば、比叡山が８４８ｍ、比良山系の武奈ヶ岳で１２１４ｍ、伊吹山で１３７７ｍ。日常的に生活している人から見れば、特別なことではないのだろう。念のためと思ってストリートビューで見てみると、一車線でヘアピンカーブが多く、直線部分では離合が苦しいようだ。しかし、付近の山からは猪苗代湖や郡山市街が見下ろせるといういう。登山道沿いにある櫃石（ひついし）は神霊をうつして五穀豊穣を祈願したとされる巨石で、峠の名の由来になっていると。名前だけ見て、陰気な峠をイメージしたが実際は登山道が通っていたりして結構明るいところらしい。
堀公俊著、『日本の分水嶺』（ヤマケイ文庫）によれば、・・・”ここは戊辰戦争の激戦地であり、会津藩の防衛拠点であった。峠の頂上付近には、いまも堡塁の跡が残っている”・・・とある。
b. 三森峠
郡山市中心部と郡山市湖南町を結ぶ途中にある。峠道は江戸時代などの古くから利用されていたが、北の中山峠付近の道路の改良が進んだ結果、裏街道になったとされる。旧道は峠付近を１９６２年開通の三森隧道で越えており、隧道までの道中にはつづら折れがあり、峠の郡山側には茶屋があったという。しかし現在、旧道は通行止め、三森隧道は埋められていると。近年では、峠付近では県道６号郡山湖南線三森バイパスの改良工事が進み、１９９２年に三森トンネル、２００４年に多田野トンネルが開通している。
地図０２．福島県横断・後半２／諏訪峠・勢至堂峠
上の地図０１のＰＱ間トラバース以後、大分水嶺はずっと郡山市内を東西（東側が逢瀬町・西側が湖南町）に分けてきたが、三森トンネルから２．４Ｋｍほど南下したところ（地図のＡ点）で、東側が福島県須賀川市に替る。
そして、諏訪峠、勢至堂峠を越える。
c. 諏訪峠
県道６７号・中野須賀川線（須賀川から諏訪湖へ抜ける県道）が通っている。ストリートビューで見ると森の中を走る一車線の道路である。道路のイメージとしては上記の御霊櫃峠に近いが、あれほどのヘアピンカーブはない。
Ｗeb地図で見ると、さらに南、須賀川側から上りの途中から分岐して、笠ヶ森山の南で市境（大分水嶺）を越える鶏峠がある。徒歩専用、ハイキング道路のようだが、レポートによると衰退しているようである。
d. 勢至堂峠
国道２９４号が大分水嶺を越える。上に書いたように北西側は福島県郡山市、南東側は福島県須賀川市、両市が大分水嶺をまたいで両側にという構図である。
Ｗikipediaには、概略次のようにある。
――江戸時代、陸奥国会津若松と白河を結ぶ白河街道が経由していた。現在は国道２９４号が「勢至堂トンネル」で通過している。峠の南側には白河街道の勢至堂宿があった。現在旧道は通行止め、立ち入り禁止になっている。旧道はトンネルを経由せず、ヘアピンカーブなどにより峠の切り通しを経由して峠を越えていた。旧道沿いには殿様清水、太閤道の史跡がある。太閤道は豊臣秀吉が伊達政宗に作らせたと言われる道路で、現在の勢至堂峠の原形にあたる。――
峠を越えた後も、大分水嶺は郡山市・須賀川市の境を経由し、両者に天栄村を加えたいわゆる三叉路（上の地図０２のＢ点）に達する。そのあと少しの間（０．５Ｋｍ余・地図のＢＣ間）は福島県須賀川市と福島県天栄村との境界線上を進む。そのあとＣ点からは天栄村内に入り村を横断する形で国道１１８号の鳳坂峠に近づいていく。Ｃ点から鳳坂峠までの天栄村横断は、まさに白紙に線を刻んでいく思いである。
地図０３．福島県横断・後半３／鳳坂峠・甲子峠
上の地図０２のＣ点で須賀川市から離れた大分水嶺は、天栄村を東西に２分する形で南下し、羽鳥湖の東へ下ってくる。
羽鳥湖は、天栄村のＨＰによると、――周囲１６Ｋｍ、最大水深３１．２ｍ、総貯水量２７００万立方メートルの人工湖。水不足に悩む矢吹ヶ原一帯のかんがい用及び発電用として、昭和３１年に完成。鶴沼川をせき止め、約１５年の歳月をかけて作られました。以来、村を代表する豊かな自然のシンボルとして親しまれています。「羽鳥湖」の名前の由来は、ダムを造るにあたってダムの底に沈んだ羽鳥集落からつけられています。――とある。なお、湖面の平均水位は不明だが、Ｗeb地図による湖岸の標高は６８９ｍとある。
e. 鳳坂峠
国道１１８号”鳳坂峠”は羽鳥湖の東に位置しているが、２０２３年１月現在ストリートビューで見ても通行止めになっている。峠の北側に２０２２年１１月２７日に新しく”鳳坂トンネル”が開通したという。これでいわゆる鳳坂峠はお役御免ということになるのだろう。
右の地図で見ると、新鳳坂トンネル西入り口付近で鳳坂峠へ向かう旧道から分かれて、県道５８号が南東へ向かう（東北自動車道矢吹ＩＣの方へ向かう）。この道が大分水嶺を越えている。（峠の名称は不明）。ストリートビューで見ると一車線の細い道である。これ以上のことはわからない。
f. 福島県白川市
話は前後するが、２０２３年１月現在通行止めになっている”旧鳳坂峠”を越えて少し南下したところ（地図０３．E点）で南東側が福島県白川市に代わる。これにより、大分水嶺は北西側が福島県天栄村、南東側が福島県白川市の市村境界線上を進むことになる。この間、県道５８号が大分水嶺を横断。ストリートビューで状況を確かめたが峠名標識等は確認できず。その後E点で南西側は西白河郡西郷村に変わる。
g. 福島県白川郡西郷村
Ｅ点で南東側が福島県白川郡西郷村に変わる。まず県道３７号が峠を越える。羽鳥湖の西を回ってきた県道である。ストリートビューで確かめたが、峠の標識は発見できず。
h. 福島県白川郡西郷村
地図０３．Ｆ点でで大分水嶺は天栄村から離れ南下を始める。東側の西郷村は変わらず、西側が福島県南会津郡下郷村に変わる。
i. 甲子峠・甲子道路
Wikipediaに概略次のようにある。――福島県西白河郡西郷村、南会津郡下郷町の境界にある峠。標高は１，４００ｍ。――ここまではいい。問題は次である。――かつて、登山道としての国道２８９号（登山国道／点線国道）が経由していた。――とある。
登山国道？、点線国道？、こんな言葉聞いたことがないぞと、周りを読みあさっていて、１枚の写真に気がついた。細い登山道に国道マークをつけたポールが立っている写真。ヒト一人がやっとの登山道である。昭和３０年代に流行っていた、いわゆるカニ族の横長のザックでは到底行き違えない、そんな道に国道マーク。
そういえば、”ヤマケイ文庫・堀公俊著『日本の分水嶺』”に何かあったぞと、読み直してみてはっきりして来た。――その先にある甲子峠の付近は、全国でも珍しい「登山国道」のあるところとして一部マニアの間で知られている。（略）ついこの間まで新潟と福島県いわき市を結ぶ国道２８９号線那須連峰の稜線を越える部分で、自動車道としては途切れていた。そのかわりに細い登山道でつながっており、甲子温泉側の入り口には見慣れたおにぎり形の国道標識があった。――と、なるほど、登山道が国道予定地として・・・。
そして、Wikipediaは続く。――甲子道路（かしどうろ）は、国道２８９号の自動車通行不能区間および狭隘区間解消を目的として建設された福島県南会津郡下郷町から福島県西白河郡西郷村を結ぶ延長２３．３Ｋｍの道路である。２００８（平成２０）年９月２１日、主トンネルである甲子トンネル（４．３４５Ｋｍ）を含む区間が開通し、自動車通行不能区間が解消した。２０１９（平成３１）年３月２５日、残された下郷町内のおよそ２．６ ㎞の区間が開通し、全線開通した――とある。
j. 甲子山（かしさん）
大分水嶺が甲子トンネルを越えたあたり、甲子道路のセンターから測って２５０ｍほどのところに立つ山（１５４９ｍ）で、カシサンと読むのだそうな。この辺りからを那須連峰に含めている説もあるが…。
k. 西へ曲がる
その甲子山を越したあとさらに旭岳（赤崩山）１８３５．２ｍと須立山１７２０ｍを越える。そして三本槍岳である。
ここのところについて、例の”ヤマケイ文庫・堀公俊著『日本の分水嶺』には、次のようにある。
・・・日光国立公園の北に位置する那須連峰は・・・と、那須岳に触れた後――大分水嶺はというと、那須連峰北端の甲子山から始まる縦走路にそって、三本槍ヶ岳１９１７ｍ（日本百名山）の頂きへと伸びている。――略――三本槍岳をこえた大分水界は、栃木・福島県境に沿って大峠、大倉山、三倉山、さらに男鹿岳へと進んでいく。――とある。
上の地図０３・下の地図０４で見るように、マンが悪く、これがちょうどその境になっていた。南下してきた大分水嶺が三本槍岳の山頂で西へ向きを変えると思いこんでいたのである。
ヤマケイ文庫『日本の分水嶺』には微妙な書き方で、”三本槍岳の山頂で・・・”とはどこにも書いていない。それを”山頂で西へ曲がる”と思いこんだ私が甘かったのだが、実際は、三本槍岳の尾根筋を中腹まで上り、”途中のＧ点で”西へ折れ曲がっていたのである。
地図０４.福島／栃木県境
右の地図が問題部分の拡大図である。「Ｇ点」がその曲折点（南下してきた大分水嶺が西へ向きを変える）。Ｇ点から山頂までの水平直線距離は３４２ｍ。どのサイトだったか忘れてしまったが、確か登山のサイトで、「山頂の手前４００ｍほどのところで尾根の分岐がある」と記されていた。これがいちばん正確な表現だろう。
F点で天栄村を離れた大分水嶺は、東側を西白河郡西郷村、西側を南会津郡下郷村とする境界線上を進み、甲子トンネルを越えてＧ点に達する。東側はしばらくそのまま西郷村が続くが、大分水嶺は西へ向きを変える。左側は茨城県那須塩原市に変わる。
遠く山形県との県境、福島県福島市と猪苗代町との境から始まった福島県を東西に２分する大分水嶺の旅ここに終わる。
l. 那須連山
そんなことで、大分水嶺は那須連山とは縁があるように見せかけて、サッと身をかわす。縁があるようなないような。
私自身は那須連山にはまったく縁なし。東北本線には何回か乗ったが、全部夜行。まったくその姿すら見た記憶がない。
m. 大峠
Ｇ点で西へ折れた大分水嶺は、２Ｋｍ弱で大峠に達する。ＨＰ・”とちぎ旅ネット”には、・・・”大峠は文字通り会津中街道の最大の難所であり、また会津と那須の分水嶺として会津中街道の象徴のような存在です。南北に通る会津中街道に対し、東西には栃木県と福島県の県境となっている尾根が連なっています。大峠のすぐ西には流石山(１８１２．５ｍ)、東には三本槍岳（１９１６．９ｍ）がそびえています。・・・・とある。
n. 男鹿岳
福島県下郷町と南会津町との境（地図H点）辺りから大分水嶺は南に曲がりだし、ほとんど真南を向いたところで男鹿岳（１７７７ｍ）に至る。秋田県に”男鹿半島”というのがある。”オジカ半島”だと思っていたら、”オガ半島”だという。この山も”オガ岳”かと思っていたら、”オジか岳”だという。勝手にせい。全くな二の知識もないところだから、検索をして・・・。
”登山情報サイトYamakei Online”からの情報。――那須岳から鬼怒沼山に至る７０Ｋｍにおよぶ栃木県と福島県の県境上には、人の訪れることもまれな、いくつもの山々が連なっている。三倉山、男鹿岳、荒海山、枯木山、帝釈山などのこうした山々の中でも、男鹿岳は最も登られることの少ない山だろう。那須野ガ原の北西に位置するこの山は、大佐飛山（おおさびやま）の陰に隠れて栃木県側からその姿を望むことは難しい。何とまあ、逆手の宣伝。全山深い樹林に覆われ太古の静寂の中にある。・・・という
o. 山王峠
男鹿岳の西方、直線距離で６．９Ｋｍにある峠。国道１２１号・３５２号・４００号が共用してトンネルで抜けている。Ｗeb地図にはトンネルの西側に旧峠が表示されている。
Wikipediaには、概略次のようにある。――江戸時代、陸奥国会津若松と下野国今市を結ぶ下野街道（会津西街道）が経由していた。後身の明治時代に改修された会津三方道路も当峠を経由したほか、現在の国道１２１号も当峠を経由している。――
一方、山王トンネルの３．５Ｋｍ西方を、野岩鉄道会津鬼怒川線がトンネルで抜けている。こんな山中を何で私鉄がと驚いたが、南は栃木県日光市、北は福島県会津若松市を結ぶという。
国道１２１号・野岩鉄道２本のトンネルが作る平行四辺形は、地図の中で結構浮き立って見える。
地図０５.福島／栃木・群馬県境
前項「山王峠」から、中央分水嶺（北側・福島県南会津町／南側・栃木県日光市）は西南西に進む。そして、帝釈山に至って北側が福島県桧枝岐村に替わる。
p. 帝釈山
帝釈山（たいしゃくさん）は、Wikipediaに概略次のようにある。
――福島県南会津郡南会津町、檜枝岐村、栃木県日光市の境界点にある。標高２０６０ｍ。中央分水嶺である帝釈山脈の中央に位置し、かつては奥深い山で幻の名山といわれた。現在は檜枝岐村から馬坂峠登山口までの林道が開設され、登山口から約１時間で登れる山になった。山頂からは、東に那須岳、南に女峰山、男体山、日光白根山、西に至仏山、燧ヶ岳、北西に会津駒ヶ岳が見渡せる。２００７年（平成１９年）８月３０日に尾瀬国立公園の一部として、会津駒ヶ岳、田代山とともに新たに国立公園に指定されている。――
q. 馬坂峠
前項「帝釈山」から大分水嶺を７００ｍ弱南へ下ったところにある峠。登山情報サイトYamakei Onlineに次のようにある。――檜枝岐村から延びる林道川俣檜枝岐線（舟岐林道）の福島・栃木県境に位置する。バスはないので、マイカーもしくはタクシー利用となる。携帯電話は圏外なので、タクシー利用の場合は事前に予約しておく。道の両側に約２０台の駐車スペース、トイレもある。――という。
r. 黒岩山
上の地図０５で見ると、帝釈山の南西方の大分水嶺上、福島・栃木・群馬の交点（Ｊ点・地図右）に黒岩山があるように読み取れる。しかし、そのエリアを拡大（地図右）してみると、黒岩山はＪ点から南に分岐する栃木、群馬両県の県境上約２００ｍ強の位置にあることが分かる。上で見てきた三本槍岳のケースによく似ている。
なお、Web地図では、「黒岩山」と大きな文字でタテに表記されている。というのは等高線を見れば分かるように、この黒岩山は平仮名の”く”の字を少し右に傾けた形に連続した３つのピークからなっている。大分水嶺は北東から来て２番目のピークで西に向かって分岐していく。その分岐点の標高はＷeb地図に夜と２１４３．５ｍとなっている。三角点のある黒岩山と明記されたピークは２１６３．１ｍ。その差約２０ｍ。現実の厳しさである。