00.このとき越えた大分水嶺
地図00-04.磐梯吾妻スカイライン
板谷峠を越えた。次は磐梯吾妻スカイラインを経て裏磐梯までを予定していた。雨でウンザリだけれども、それはいまさらいっても仕方がない。このコースの目的は吾妻小富士の噴火口を見ることだった。これだけは何としても見たい。ダメならダメのとき、とにかく行くことにする。
田沢湖線・仙岩トンネル、面白山トンネル、板谷トンネル、いままで3回の大分水嶺越えはすべてトンネルでその下を通過するものだった。ところが今回、地図を調べてみると磐梯吾妻スカイラインは大分水嶺上を走っている。当時はもちろん大分水嶺なんて認識はない。ただ1000mを超す尾根道を走ることがうれしかった。しかしその日は、残念ながら雨だった。
01.大分水嶺の流れ
地図01。板谷峠〜磐梯吾妻スカイライン
東北中央自動車道・栗子トンネルの少し南に当たるA点で、大分水嶺は山形・福島県境から離れる。国道13号、奥羽本線とクロス(どちらも大分水嶺の下をトンネルで通過)して、福島・山形県境の東大巓(1928m)へ向かう。国道13号と奥羽本線の間の高原状の部分と、東大巓の北の明星湖・明月湖(標高1800ぐらいの湿原)付近で尾根がはっきりしなくなるが、他の部分はわかりやすい尾根が続く。東大巓からC点まで再び県境にもどる。
C点からは福島市と猪苗代町の間の市町境を南へたどることになる。一切経山、東吾妻山とたどる間に、東の福島市の方から磐梯吾妻スカイラインが徐々に近づいてくる。
地図02.猪苗代町あたり
東大巓から大分水嶺が山形・福島県境に沿ってC点へ達し、そこで向きを変えて南下し始めるところである。大分水嶺は福島県を太平洋側(福島市)と日本海側(猪苗代町)とに2分する形で、市町境に沿って南下して行く。
一方、北東側から磐梯吾妻スカイラインが、随所にヘアピンカーブを曲がりながら近づいてくる。
浄土平(標高1600m)、吾妻小富士(同1707m)、駐車場から約10分で山頂へ着くという。
地図03.磐梯吾妻スカイライン
磐梯吾妻スカイラインが大分水嶺と並走する区間である。(注)いままでの地図では大分水嶺を赤色の実線で示してきたが、今回の部分では、スカイラインが大分水嶺と並走することとなり、赤線で示すとあいまいな部分が生じる恐れがあるため、赤線を省略し太平洋側の赤色塗りつぶしだけとした。
A点(標高1360m)、浄土平から上ってきたスカイラインが、初めて大分水嶺とクロスするところである。つぎのB点までの距離521m。
B点(1378m)からC点までの間で、大分水嶺は相ノ峰(1412m)で南東へ向きを変える。スカイラインはその山頂を避けて内回りで太平洋側を進む。つぎのC点まで稜線の距離560m。
C点(1363m)からD点までの間では、ここでも稜線(大分水嶺)上に名無しのピーク(1388m)がある。スカイラインはこのピークを避けて日本海側を巻いて進む。つぎのD点までの距離584m。
D点(1296m)からE点までは太平洋側を走るが、距離は120mほど。そのあとは、日本海側を蛇行するが稜線へは戻らない。
A点からE点までの大分水嶺の距離は1785m、スカイラインでは2355mほどである。クルマで走ればアッという間である。
02.福島駅前
板谷峠を越えて福島駅着が11時04分。バスは12時ジャスト発だという。乗車整理券をもらって腹ごしらえ。
左、駅前にいた市街電車。いま(2020年)はどうなっているかと地図を調べてみた。東北新幹線ができたりして様変わりしている。市街電車らしい路線は見つからなかった。多分廃止されたのだろう。
03.スカイラインへ
磐梯吾妻スカイライン、12時00分発。アプローチは20分ほど。すぐに上りにかかる。高湯から有料道路にはいる。ウルシの木などが色づいている。白樺も散見できる。
ヘアピンカーブを上って浄土平へ。明るい感じのするところ。一切経谷の噴煙が印象的。(写真右)
04.吾妻小富士
浄土平でバスは小休止する。駐車場は確か吾妻小富士からスカイラインを越えた反対側だった。出発までの時間の中で、噴火口まで上るのは不可能だった。全体像を見るにはむしろ駐車場から直接吾妻小富士の反対側へ登る方がよいのではないかと考えた。雨の中を、10分ほどの時間を使って、少し山手へ上ってみる。吾妻小富士の火口の周りがかろうじて見える(写真右)。
もっと高く、もっと遠いところから見れば、ほっかりと口のあいた噴火口に見えるのだろう。時間をかけてみたいところ。それにしても傘をさして山を走って登るなど、なんとまあ忙しい旅だと思う。
浄土平、13時50分発。会津側へ下る。途中ガスのため何も見えず。ガイドさんは見えない風景を一生懸命しゃべる。雨もまたよし。雨の中を歩くことに比べれば、バスは天国、ガイドさんさえ黙っていてくれたら。しかし、彼女はしゃべっていくら。黙っておれというのが無理なのだろう。
深田久弥、『日本百名山』、”20.吾妻山”の項に次のようにある。
一口に吾妻山と呼んでも、これほど茫漠としてつかみどころのない山もあるまい。福島と山形の両県にまたがる大きな山群で、・・・・
この山群には一頭地を抜いた代表的な峰がない。それでいて、東北では貴重な千九百米以上の高さを持つ峰が、十座近くも群がっている。しかもそれらの峰ががいずれもずんぐりした形で、顕著な目印がないので、遠くからこの山群を望んで、どれがどの峰かにわかに識別しがたいほどである。
そのなかで吾妻小富士がその名の通り一つのまとまりを見せているが、しかし千七百米しかなく、形も小規模なので、これをもって吾妻山の代表とするわけにはいかない。・・・・
ごく一部の抜粋であるが、このあと添付の写真が、この吾妻小富士を俯瞰した写真が添えられている。例のぽっかりと口を開けたところである。そこの写真が撮りたかったのだ。もう少し時間があれば。
そして、久弥氏はさらに続ける。
観光旅行が盛んになるにつれて、業者はこの変化に飛んだ広範な大自然を見逃さなかった。スカイライン・コースと称する自動車道路が東吾妻に貫通して、遊覧季節にはマスクなしに歩けないほど塵埃が立つそうである。その手はさらに広がってくるだろう。我々はいよいよ山奥深く逃げ込むよりほかはない。
そうでした、そうでした。ここでいう”塵埃”はどこまでのことを意味するのか分からないが、特にディーゼルエンジンの排気はひどかった。力いっぱい踏み込んだときのそれは蒸気機関車並みだった。特に暑い日、未舗装の砂利道。2号車以降は暑い車内で窓も開けられず、エアコンのない車内は地獄だった。その後、規制されてずいぶん楽になった。規制されてできるのなら初めからやっておけばいいものを。
05.檜原湖畔・水宝館
15時20分、磐梯高原・檜原湖畔着。雨の中を水宝館へ入る。
部屋の窓から木立の向こうに湖面が見える。雨の音が屋根を打ち、部屋は薄ら寒い。何とわびしいところか。
4時ごろ、風呂へ行こうと廊下を歩いていると、窓から木の間越に赤茶けた山肌が見えた。「・・・?」。磐梯山だった。思っても見ない近さだった。写真を見て想像していたのとは、全くかけ離れた迫力だった。
夕方、いったん止んだ雨が、夜になってまた降り出した。明日は晴れてくれればいいが。
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