5月21日に金環食が見られるという。さて、この一生に一度の天体ショーをどう撮るか。欠けた太陽だけの写真なら、雑誌等にゴマンと出ているわけで、そんなの撮っても仕方がない(と僕は思っている)。ここはやはり自分の風景の中に金環食の太陽を置きたい。本番に向けてイメージテストをしてみた。その報告。
1.事前に準備したもの
月刊「星ナビ」 臨時増刊号『金環日食を見る』 ¥500(日蝕観察プレートA5判付)
新たに購入したものはこれだけ。あとは日常の撮影器具があれば十分。
2.作品のイメージ
1A
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1B
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これがおおよそのイメージ。私が写っているのは、これはお笑い。別に意味はアリマセン。このレベルのお遊びでいいのなら、意外と簡単に出来る。カメラを三脚に固定して買ってきた日蝕観察プレート(真っ黒の下敷きと考えればいい)でレンズを塞ぎシャッターを切ればいいだけ。
するとシャッター1回につき左のようなデータが1枚出来る。10回シャッターを切れば10枚出来る。
シャッター1回ごとに太陽は位置を変えているからそれらを集めて1枚にまとめると点々と並ぶことになる。それを風景のデータと重ね合わせればできあがり、という段取り。
合成が大変じゃないかと心配される向きもあろうが、心配ご無用。「KikuchiMagick」というすごいフリーソフトがある。
長いレンズを使って、こんな絵を作ることもできる。ちょっとピントが怪しいが。回りの赤い炎のようなものは、「日蝕観察プレート」のクセらしい。出方は露出によって変わる。事前に確認しておいた方がいい。
(上の例1A,1Bは5分間隔。レンズは1A・70mm。1B・54mm。)
3.KikuchiMigickの操作
KikuchiMagickのダウンロードページからソフトをダウンロードする。解凍してインストール。
左画面のようなアイコンが出てきたらしめたもの。ついでに下に新しいホルダーを2つ、A,Bを作っておく。左の例ではデスクトップに置いているが、これはどこでもかまわない。自分が使いやすい場所で結構。
Aに、合成する写真のデータ(何枚か撮った太陽の写真とベースになる風景の写真)を入れる。
Aフォルダーの中身である。ファイルの番号はカメラから出てきたままでOK。注意しなければならないのは、すべてが同じサイズでなければならないということ。太陽のデータはみな同じはずだが、風景のデータはうっかりすると前に撮ったものなどを使うと、別サイズになっているおそれがある。この点だけは要注意。ホルダBは合成した写真の置き場所である。
KikuchiMagickを起動させると、左のようなBOXが表示される。左上の「元画像フォルダ」をクリックする。
ホルダの参照が表示されるから、A(合成するデータが入っているフォルダ)を指定する。
ホルダA(合成するデータが入っているフォルダ)が指定されたことを確認して、その下の「保存ファイル」をクリックする。「比較明コンポジット」はなぶらない。
上で「保存ファイル」をクリックすると、「名前をつけて保存」BOXが出てくる。ここのところが感覚的にわかりにくい。しかし、何かのデータを保存すると考えたら普通の話である。ワードなどで仕事が終わった時を想定すればいい。保存する場所にBフォルダを指定し、ファイルの名前を指定すればよい。
最終確認。フォルダA、フォルダB、そこに入るデータファイル名を確認して、「実行ボタン」をクリックする。
データの大きさ、合成する枚数によって少し時間がかかることがある。「完了」ボックスが表示されたら万事OK。Bフォルダに合成された写真が入っている。
4.撮影に当たってつけたしをいくつか
1.三脚は必須。
2.三脚にセットしたら、まずレンズの長さ(これで太陽の大きさが決まる)を決める。裸のままディ スプレーで見ると白い画面に太陽が黒く見える。日蝕観察プレート(真っ黒の下敷きと考えればいい)を通すと黒い画面に太陽が黄色く見える。ここでレンズの長さを決めたら、以降一切さわらない。
3.ピント合わせは手動で。オートは作動しない。遠くの山に手動でピントを合わす。間違ってレンズの長さを変えないように。露出も手動。事前にテストを。ちなみに、上の例ではISO:100,F:8、1/50秒。
4.風景の写真を頭に置いて、最初の太陽の位置を決める。大事なことだといえば大事なことだけれど、あとで述べるように、多少狂っても対処の仕方はある。実際にはもっと下から始めてもいい。要らなければ合成の対象から外せばいいのだから。それよりも金環食の太陽をどこへ置くか。これをしっかり決めることの方が大事。
5.あとは一定間隔でシャッターを押せばいい。
2A
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2B
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上の2Aの下から2番目の太陽の位置は、少しおかしい。うっかりして1分早くシャッターを切ってしまった。太陽の1番目(一番下)の位置は私の写真を想定して決めた。
その後、気が変わってBの写真を持ってきた。左の太陽の1番目と2番目はない方がよい。フォルダAの中からその2枚のファイルを削除すればよい。
そんなことで、ベースになる風景は後で考えても話は成り立つ。問題は画面の中で金環時の太陽をどこへ置くかをしっかり決めておく必要がある。それから逆算して最初のシャッターを何時何分にきるか。
それよりも最大の問題は当日の天気やな。
5.追記 (2012.05.16)
2分間隔で撮ってみた。太陽が月見団子みたいにつながる。なるほど。メソポタミヤかどこかでは、このように太陽を数珠繋ぎに並べると一周で720個並ぶことをすでに紀元前に知っていた。時間に直すと一周24時間×60分=1440分。1440÷720=2分。 まあこういうことなんだけど、2分間隔で撮って置いて、1枚おきに抜いていけば4分間隔になるし、2枚ずつ抜いていけば6分間隔になる。 1分ごとに撮れば半分ずつ重なっていくから・・・と心配されるかも知れないが、1分ごとでもいっこうにかまわない。撮れるデータはあくまでデータ1枚に太陽1個だから。合成したときに重なるだけ。
6.追記の追記 (2012.05.19)
天気のことを心配しても始まらない。当日になって慌てるより、やるだけのことはやっておこうと、1分ごとのリハーサルをやった。当然のことだけど1本の棒になる。これでいっこうにかまわない。1枚抜きで合成すれば2分ごとの絵になるし、2枚抜きなら3分ごとというように自由に絵が作れる。
大事なことは最大食の太陽を画面のどこに置くかということ。これをしっかり決めておかないと妙なことになる。一応、左の例では左右はまん中より少し左、上下は上から4分の1よりちょっと下ぐらいを想定している。野洲市での最大食は7時30分51秒だという。そのデータが野洲市のどこを基準にしたものかと言うことが問題になるが、小さい市はこういう場合リスクが小さい。これを信じるしかない。最大食にシャッターが切れるためには、毎分51秒に切らなければならない。
始点の位置は下から4分の1とした。棒の波を勘定すれば分かるが最大食を想定している位置まで31個、時間にして30分。だから最初のシャッターは7時00分51秒である。当然のことだが、これはレンズの長さによって変わるから、自分のカメラで実験してもらわなければならない。この話はあくまで私がやった例。
7.たわごと
電波時計
電波時計という得体の知れない時計がある。電波によってコントロールされていて狂わないのだという。話を聞いたときにはなるほどと納得し、凄い時計が出たものよと感心もした。しかし、それをいざ自分で持ってみると何の意味もないのである。1秒も狂わないことがどれほどの意味があるのか。実際に持ってみればよく分かる。だいたい日常生活において「秒」という単位など、まず必要がないのである。1秒や2秒、いや1分や2分狂ったところで、何がどうということはないのである。
もちろん1秒、2秒という「時間」はひょっとして使うかも知れない。たとえばカメラのシャッターなどのように。しかし何時何分何秒という「時刻」が必要になることは絶対にない、と思っていた。ところが今回、日蝕の写真を撮るに当たって、その時刻が必要になってきた。その事情は上に述べたとおりである。「時間」ではない絶対的な「時刻」の必要性。電波時計の存在意味が始めて分かった思いである。
お百度シャッタータイミング
毎分51秒に一分間隔でシャッターを切る。たとえば7時00分51秒、7時01分51秒・・・というように。口でいうほど簡単な話ではない。雑念が入るのである。たとえば散歩する人が横を通る。ふっと意識がそちらへ行く。今回もヘリコプターが飛んできた。最初、爆音が聞こえているのに姿が見えない。どこにいるのだろう。また意識がふらつく。かといって間断なしに時計をにらんでいるわけにも行かない。
昔、山をやっていたころ、山小屋での談義に聞いた話だが、山でことが起こるのは歩き出して3時間後。縦走なら3日目、とにかくちょっと慣れだしたときが危ないのだという。最初は緊張しているが、その緊張はいつまでも続かない。その緊張のとぎれるときがコワイ。今回のヘリコプターがまさにそれだった。とくに今回のように、毎分51秒、そのときは長針は次の「分」をさしている。さてこの51秒は押しただろうか、という調子である。
三脚を立てていたところが直径10mほどの円形の花壇のそばだった。ぐるっと一周するとだいたい1分かかることに気がついた。シャッターを押して花壇を一周してくるとだいたい50秒ぐらい。歩いている間は何を考えても大丈夫。カメラに戻ればシャッターの数秒前。一周30mとして、初めからそれに気がついておれば、トータル1500mの散歩だった。
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