写真1・m.mさん撮影
ISO=100; F=8.0; 1/
30秒;
m.mさんから 「桜の枝を振らそうとしましたが、こんな写真になってしまいました」と、写真1が送られてきた。
m.mさんがいう「こんな写真」とは、桜の枝を振らそうとしてスローシャッターを切ったが、枝は揺れずに露出オーバーになってしまったということであろう。枝がどの程度の振れかたであったか、これはそのときの風の強さによるから何ともいえないが、一ついえることは、枝を見る方向。この写真では木の幹の方から先の方を見ている。振れがよく目立つのは、カメラに近い方である。枝の先をカメラの近くへもってくる。いまの場合はその逆で、枝の先がカメラから遠い。枝の先から幹を見る方が振れがきっちり写りやすい。これは構図の選択の話。いま問題にしようとしているのは露出の話である。
桜の花びらが流れる写真があればよかったのだが、残念ながら。ということで花吹雪ならぬ本物の吹雪で。2011年3月26日、時ならぬ春の雪である。なおデータはカメラのプロパティから。ただし括弧付きのEV値は私が露出計算尺を使って逆算したものである。
写真2・ISO=400; F=5.6; 1/300秒; (EV=11);
|
写真3・ISO=100; F=5.6; 1/ 75秒; (EV=11);
|
写真4・ISO=100; F=5.6; 1/
56秒; (EV=11);
|
写真5・ISO=100; F=5.6; 1/
10秒; (EV= 8);
|
写真2 時ならぬ春の雪にとにかくシャッターを切った。たまたまISOは400、F=5.6(絞り優先)
にセットされていた。結果は1/300秒。ものの見事に雪は止まっている。このときは雪の量が多く、止まっていても雪に見えるが、少ないときにはゴミが付着したように見える。とにかくこれではアカン。
写真3 ということでISO=100に変更した。写真2と写真3はともにEV=11。要する両者の間は2分。明るさは変化していないということ。F値は変わっていないから計算しやすい。ISO=400とISO=100では2ステップの差がある。400,200,100だからその間は2ステップ。だからシャッタースピードが1/300,
1/150, 1/75で2ステップ。
写真3と写真4 シャッタースピードが若干違っているが、これはほぼ同じ。撮影時刻もほとんど同じ。ところが写真5のほうが雪が激しく流れている。1/75
が 1/56 に変わったからやと考えてはダメ。1/56 は 1/75 の 1.3
倍でしかない。2倍も3倍も違えば別だけど、たかが1.3倍。それよりもっと大きな要素がある。何か。……見て分かるとおりレンズの長さ。レンズの長さが長いほど流れが大きくなる。ワイドでは手ぶれは少ないが、望遠では手ぶれが起こりやすいのも同じ理由である。
写真5 雨に変わったように見えるが、そうではない。写真5から30分以上たっている。シャッターが1/10秒と遅くなった。あたりは暗くなったのだろう。ところが写真を見ている限りちょっとも暗くなっていない。ここのところがオート露出の凄いところでもあり、バカ正直なところでもある。さじ加減をきかせて、多少暗くしておけばいいものを、気をきかせすぎてシャッターを遅くして、同じ明るさに仕上げた。
ことほど左様に、シャッタースピード一つで、雪がゴミになったり、雨に変わったりする。桜の枝を振らすのも、散る花びらを流すのも、要はシャッタースピードのコントロールにかかっている。
さてm.mさん撮影の写真1.
m.mさんはここで桜の枝を振らそうとした。風で揺れる枝を振らすためにはスローシャッターを使うぐらいは写真をちょっとかじった人ならば誰でも知っている。以下はこれに対する私の推測である。
振らすためのシャッタースピードは、風の強さ、枝の状態その他、いろいろ条件があるが、上の雪の例を見ても1/300秒では止まり、1/60秒では流れている。m.mさんは、シャッター優先モードを使って1/30秒にセットした。しかし、枝は振れずに露出オーバーになった。なんでや。
露出1・EV=11(ISO=100)
|
露出2・EV=13(ISO=100)
|
春の雪の写真はFujiのコンパクトカメラで撮影した。絞りの範囲はF=2.8〜8.0の3段(絞り値は4つ)である。露出1の左下赤枠。絞り優先でF=5.6を指定した。シャッターは1/64秒(実際には 1/75, 1/56と多少のずれは出ているが許容範囲である)。もしこのときF=2.8を選択していたら、1/250となり、雪が流れていたかどうかは疑わしい。しかし、写真の濃度はF= 5.6, 1/64秒と同じ濃さに仕上がっているはずである。(赤枠内の4つの組み合わせはすべて同じ濃さに写る)。
「シャッター優先モード」の落とし穴
m.mさんのカメラは分からないが、仮に私と同じFujiのコンパクトカメラであったと仮定しよう。m.mさんは枝を振らすためにシャッター優先モードで1/30秒を選択した。「春の雪」のときだったら、F=8.0で適正露出が成立する範囲だった。(露出1の赤枠内)。ところが見てのとおり、当日は春の晴天。多分EV=13ぐらいになっていたはず(露出2)。シャッター1/32秒を指定すると絞りはF=16になる。ところがじFujiのコンパクトカメラにはF=8.0までしか装備されていない。明るさ(EV=13)からすればF=16, 1/32秒で切らなければならないのだが、ない袖は振れない。まぶしいのを我慢してF=8.0, 1/32秒で切ることになる。当然、露出オーバーになる。要するにそのときの明るさにカメラが対応できる範囲外のシャッターを強要したわけだ。
現在のカメラには、数10秒から1/4000秒あたりまで、20ステップ近くシャッタースピードがセットされている。しかし、「シャッター優先」モードならこれらを自由に選んでいいというわけではない。露出2でいえば、選べる範囲は、1/1000, 1/500, 1/250, 1/125秒の4つだけである。相手のF値が限定されるからである。(コンパクトカメラでおよそ4つ、一眼レフでも6つか、7つぐらい)。それ以外の条件を選ぶと、オーバーになったり、アンダーになったり、何らかの支障が生じる。カメラは「警告」を出しているはずだが、撮影中はそんなことに気がつかないから、そのままシャッターを切ってしまう。カメラにとっても使用者にとっても泣ける話である。
写真1の場合、枝が揺れなかったということは1/30秒でもまだ早かったということだろう。ひょっとして、1/10秒、1/5秒だったら揺れていたかも知れない。しかし、1/10秒だったら、F=32 , 1/5秒だったら、F=64 となって、カメラの立場からすると「想定外」ということになる。だから私は「シャッター優先モード」は使わない。「絞り優先モード」にしておいて、シャッターを速くしたい場合は絞りを開ける。遅くしたい場合は絞る。レンズがもっているF値を越えて指定はできないから、とんでもない失敗は防げる。
ISO感度を下げる
EV=13 の明るさ(ISO=100, F=16, 1/32秒)のとき、F=8.0 までしかないカメラで撮影したいときは、1/125秒で切るしか仕方ない。どうしても1/32秒を切りたいときは、ISOを50, 25と下げるしか手はない。しかし、ほとんどのカメラはISOの最低値が100である。これを10ぐらいまで下げられると振らす話は楽になる。しかし現実問題としてはその能力はないから、フィルターを使うしか方法がない。NDフィルターといって、灰色のフィルターである。たしかX1とX2があったはず。X1を使うとISOを1段下げることができる。(EV=13 をEV=12 に)。X2だったら、2段(EV=13 をEV=11 に)。露出2の場合、F=8.0, 1/125秒だからX2のNDフィルターを使うと、F=8.0, 1/32秒が切れる。
蛇 足
写真6・marimariさん撮影
ISO=500; F=9.0; 1/500秒;
marimariさんの写真が蛇足というわけではない、悪しからず。これはわいわい村 NO.77(2011年4月後半号)掲載の写真である。これに対して「幹の黒いところに散った花びらが流れていたらっよかった」という無責任なコメントをつけた。
何が無責任か。このままでは仮に花が散っていたとしても花びらが流れることは絶対にないからである。
データを見てみよう。いまのデジカメは難儀なもので(marimariさんが難儀というわけではない。悪しからず)、フィルム時代には絶対に出てこなかった数字がばんばん出てくる。ISO=500 こんな数字は見たことない。ということで、仮にISO=400としよう。次、F=9.0 なんやこれ?、これも見たことない。仮にF=8.0とする。シャッタースピード1/500秒。これはまとも。(marimariさんがまともというわけではない。ハイ!)。これをもとに露出計算尺で当てはめてみるとEV=13と出てくる。m.mさんの桜と同じ値である。(まあ普通の晴天はだいたいEV=13前後と相場が決まっている)。 この明るさではm.mさんの枝が流れなかったように、花びらも流れない。写真というヤツは難儀やね。(はい!、marimariさんが難儀というわけではない)。 晴天のもとで、枝を振らしたり、花びらを流したりするには、ISO感度が高すぎるわけ。ISO=50, ISO=25 ぐらいが設定できたら、花びらぐらい簡単に流れるのだけれども。
|