付章1 三上山はどちらを向いているか

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展望図トレース:道本裕忠氏

別項・「三上山スペシャル・三上山はどちらを向いているか」
ふるさと富士シンポジウムでの講演録として詳述、そちらもどうぞ。

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 「三上山の正面はどちらですか」という質問を時どきいただく。山に表裏があるわけでなし、人間誰しも自分が日常的に見ているほうが正面だと思っているのがオチだから、「さあ。どちらでしょうね」と笑って流してきた。どちらが正面だろうと、目くじらを立てるほどのことではない。ところが、今回、本書を編集するに当たって、この山の姿を子細に見直してみて、それが笑って済ませることではないことに気がついた。三上山は見事な方向性を持っていた。世間一般にいわれるような単純な「円錐形の山」ではなく、人間と同じように前後を持った姿を示して いた。

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 左の地図に見るように、雄山(主峰)の頂上から、西と南に向けて2本の尾根が伸びている。そして、それらの尾根を挟む外側の扇形、すなわち真西から北、東、南と回る270度については、注文通りほぼ円錐形を示しているのだが、残りの90度については、どちらかというと内側にへこんだ凹の面を形成している。

 上のスケッチ図は、三上山南西方上空から、凹面を正面に見たところである。左斜面に西尾根、右斜面に南尾根が見える。手前、凹部の中央に、あたかも重さで垂れ下がった天幕を持ち上げるかのように雌山が見える。そして何よりも、目を見張るような見事な対称性。自然の造形物で、これほど幾何学的なものがほかにあるだろうか。

 主峰雄山から雌山へ向かって、その対称軸上を尾根が流れ下る。人間の顔でいえば鼻筋に当たる。私はこれを「鼻筋尾根」または「正面尾根」と呼んでいる。主峰に対する雌山の存在、私はこの姿を見るとき、スフィンクス像の前足や、ボンネットバスの前部を連想する。どちらも方向性を持っている。
 三上山はただ立っているのではない。南西を向いて立っているのである。

 それにしても、この対称形はすごい、と私は思う。例えば、本家の富士山のようなコニーデ式火山の場合、溶岩が対称形に流れ下る、これは自然の摂理としてありうることである。ところが三上山はそうではない。古生代の堆積岩が中生代に熱変成を受けて、固く緻密な変成岩となり、浸蝕を免れて形作られたものだという。その成因を思うにつけ、造形主としての神の鮮やかな手腕に、ただただこうべを下げるばかりである。

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 この展望図は、三上山の南西側半分、方位135度から315度までの間を、15度刻みでその姿の変化を記録したものである。前出の地図を45度左へ回転させると、太い斜めの線が水平になり、225度を指している矢印が真下を向く。そのときの右半分の方位が右の図、左半分が左図に対応している。

 135度、三上山の南東方から見たところである。左斜面が南尾根で、その向うにわずかに雌山が見える。
 165度、南尾根が手前に回ってくる。左斜面が正面尾根。雌山がきっちり姿を現す。
 195度、南尾根が右へ回り、左に正面尾根が見えてくる。雌山が手前に大きく見える。
 210度、ここから255度あたりまでは、雌山が本体に重なり、うっかり見ていると雌山の存在を見逃してしまう。
 225度、雄山・雌山・正面尾根が対称軸上に並ぶ。私が言う「正面」である。このあと240・255度と雌山が右へ移動して行く。
 270度、三上からの撮影で、距離が近くなるので、雌山が右側に目立ってくる。西尾根が手前に下ってくるのが見える。この尾根が、御上神社からの登山道に当たる。雌山の下に見えるのが御上神社の森。  315度、三上山の北西方から。右斜面が西尾根、その向うに雌山が遠ざかる。
 撮影距離が一定しないから、山の見え方に不整合な面も見られるが、225度の線を対称軸として、左右の形が対称形に見えるのがお分かりいただけよう。特に150度と300度、165度と285度のように、完全に裏向きに見えるところなど、興味深いところである。



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