CD版あとがき

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 三上山を中心とした風景の記録を始めて、四半世紀が過ぎました。最初の写真集『四季近江富士』CD版の完成を目前にして、やっと原点へ戻ってきたという思いです。
 写真集出版から20年を経て、改めて見直すとき、不完全な点ばかりが目に付きます。はじめにも書きましたように、撮りだしてから5年あまりでの出版でしたが、今になって思い起こすとき、やっぱりその時点で写真集にまとめるには無理だったようです。
 その最大の理由は、撮影場所の偏りです。野洲町の三上や南桜などは、これでもかというばかりにでてくるにもかかわらず、中主町や草津市はゼロといった調子です。また、途中にも書きましたが、「四季」を編集のテーマとしたために、夏の写真の品薄を二重帳簿でごまかさなければならなかったり、そのごまかしを隠すために、撮影年月日を表に出すことができなかったことなど、致命的な欠陥がいくらでも出てきます。
 このような基本的な準備不足以外にも、撮影を始めて5年ばかりでありながら、撮影場所の誤記・誤認といったミスも目に付きます。もしこのままなら、間違いのままで残されていく運命にありました。ここ1年ばかり、この写真集を片手に当時の撮影現場再確認を続けて来ましたが、結果的には、現場の確認よりも写真集の欠陥を再確認する行脚だったとの思いでおります。このCD版により、その間違いを正せる機会をもてたことで、多少なりとも救われた思いです。
 風景写真の撮影場所を記録にとどめることの難しさと、人間の記憶の不正確さをつくづく感じます。撮影場所は、ほとんどの場合、道路や河川を基準にしてインプットされますが、道路が1本付け替わると、記憶の座標系が崩壊します。道路の変化でそれですから、河川が付け替えられることなどは、それ以上の次元の変化に相当します。その河川の付け替えが、ちょっと数えるだけでこの20年間に5指に余ります。そんな現状に立つとき、撮影場所の記録は、結局は緯度・経度による以外手はないのではないかという気がしてきております。
 そんなマニアックな話はさておき、約四半世紀を挟んでの今回の仕事は、「いくとせ故郷来てみれば」という懐かしいものでした。このあ次の写真集にとりかかります。それができた時点で、もし神様が時間を下さるようなら、今までの3作を、緯度・経度で洗いなおしてみようかとも思っています。
 最後までご覧くださいましたことに感謝申し上げます。ありがとうございました。

   2004年2月25日            八 田 正 文   

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