国鉄野洲駅から滋賀交通の赤いバスで数分、御上神社の杜を右に見て、国道8号を横切ったところが「山出前」バス停。ここが三上山への登山口である。「天保義民碑一丁」とある道標のそばに、登山案内板が立っていて、二つのコースを説明している。右側のコースは婦人、子供に適するとのことで、山腹に建つ天保義民碑のそばを通って、雌山コースで山頂に達する。左のコースは、雄山への直登コースであって、登りはしめからかなり急な石段道となる。
はしめての時は、この急な右段に驚いて、どうなることかと心配するが、だましだまし登っていくと、10分ほどで傾斜はゆるくなる。妙見堂の少し手前、道が登山道というよりどこかの参道のような感しになるが、そこらで道からはずれて、左手の林の中へ入ると、いくつかの岩が露出していて木の聞から三上山の頂上が見える。さきほどの石段で、けっこう登ってきた気がするのに、頂上ははるかに高く、まだあんなに高いのかとあらためて思い知らされる。
ほどなく妙見堂。かつては立派なお堂があり、茶店風の展望台が建っていたが、いまは見るかげもなく荒れはてている。ここからが本当の 山道になる。道はほとんど頂上へ向かって最大傾斜線に沿ってつけられている。人一人がなんとか通れる細い道に、潅木がおおいかぶさってきて、しばしば首をすくめて通らなければならない。5月、若葉のころには新芽のにおいでむせかえるようである。
麓から30分くらいで、大きな岩盤が露出した岩場へ出る。かなりきつい勾配で、岩面にステップが切ってあり、鉄棒の手すりもついている。汗をふいて振り返ると、すぐ下に御上神社の杜が見え、野洲川の鉄橋を渡っていく新幹線の列車が模型のようである。遠く琵琶湖が横たわり、それに流れ込む野洲川放水路の白い流路が印象的。30年ほど前までは、春先、このあたりから見下ろす近江平野は、麦の緑と菜の花の黄と、レンゲ草の赤とが織りなして、なんともいえない美しさであったという。
私は、冬の快晴の日の出前にここに立ったことがある。太陽が昇る前の西の空は青くつめたく、眼下の野洲の町にはところどころ電灯のあかりがともっていたが、それもやがてうすれ、朝もやにかすむ比叡連峰(京都の街から見る比叡山は、一つの独立したピークをもっているが、 琵琶湖側から見るそれは、北の方の比良山までずっと尾根つづきで、連峰という言葉がぴったりする)に紅をさしたように朝日が当たる。 朝もやがトキ色と灰色の二つにわかれ、一つは明るい朝の光に輝き出し、一つはかげとなる。日の出から 約30分もするとそのかげはくっきり と野洲の町なみに三上山の形をうつし出す。その雄大な大自然の演出に、寒さをこらえて立ちつくしていた。
さて、そこをこえると頂上まであとわずか。赤松の中を10分も登ると頂上である。
頂上には巨大な磐座があって、かつては神の座として清められていたのであろうが、現在では、親子ハイキングの弁当の座として、かっこうのスペースとなっている。その磐座の横に奥宮の小さなほこらがある。
頂上からの眺めはすばらしい。とくに冬、比良連峰が雪でおおわれるころには、細く横たわる琵琶湖とともに、厳しい光景を見せてくれる。
麓の山出前から頂上まで、大人の足で4〜50分、子供連れなら1時間ほどであろうか。
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