三上山に想う

滋賀県知事 武 村 正 義
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 滋賀県、近江の国は中央に琵琶湖、その周囲に豊かな実りをもたらす小さな平野と、緑深い山々を持っています。その自然は、雄大というよりも穏やかでやさしく、人を包みこんでくれるようです。そのような滋賀県の自然の中で最も親しまれているもの、その一つは琵琶湖であり、そしてもう一つは三上山ということができるのではないでしょうか。
 三上山は古来、多くの歌詠みたちの心を捉え、歌枕として数多くの和歌に詠み込まれてきました。滋賀県の数ある山の中で、この山だけは他の山々と少し違う扱いを受けてきたようです。
 古代、三上山は御神山、つまり神の山でした。瀬田の唐橋に住む蛇を苦しめたという有名な大ムカデの伝説も、結局、この山の持つ神性の表れともみられます。このような神さびた雰囲気が、たしかにこの500mにも満たない小さな山には備わっているようです。
ともすれば神々が住みにくくなったとさえいえる現代でも、三上山はやはり特別に人の目をそばだたせるようなところがあります。この山は遠くから眺めてもきわだって目立ちます。琵琶湖をへだてた対岸からでも十分その姿を楽しむことができます。そして、三上山を全く知らない人でも、その姿を認めれば、そこに興味を持ち、心に留められるのではないかと思います。
 近江富士とも呼ばれる三上山は、たしかに富士山に似た姿をしています。美しい曲線的な裾野を持ち、孤高を保って立っています。しかし、富士山の雄大さ、荒々しさに比べ、三上山は、優美で女性的な姿をしています。そして、穏やかでやさしい周りの自然と調和して、四季折々に美しい風情を見せてくれます。このように、私達の心をなごませ、感銘を与えてくれる穏やかな自然は、私達滋賀県民の宝物であると同時に日本の宝でもあります。このような自然がいつまでも美しい姿のままで残ってくれるように、大切にしてゆきたいものです。


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