とんがり富士(160度線の不思議)

ふるさと富士シンポジウム講演の一部です。

も ど る



南桜のとんがり富士

 上の写真はもちろん三上山です。しかし、本当に三上山かなと疑いたくなるほど鋭く尖っています。鉈ではつったようです。 どこから見ても円く穏やかな山頂を見せる三上山としては、特異な姿といえます。 撮影場所は一般的にいえば滋賀県野洲市南桜ということになりますが、このとんがり富士が見えるのは、南桜でもごく限られた一部の場所からだけです。実に不思議な見え方です。

 下の写真をご覧下さい。三上山を中心として、方位150度から170度までを5度ずつに区切って示しています。いうまでもなく方位160度で鋭く尖るのがおわかりいただけます。 155度や165度においても、多少とんがりの傾向は見えますが、160度ほどではありません。
 地図1はその方位の位置関係を示しています。中央の赤い線が160度線で、互いのポイント間の距離は約150mです。方位だけをとってみれば、きわめて狭い範囲で見られる現象といえます。


150度


155度


160度


165度


170度

 これを反対側から見たらどうでしょうか。330度から350度度がそれに当たります。下の5枚を見てください。 どこにも尖った姿は見あたりません。不思議です。5カ所の 撮影位置は地図の通りです。
 地図で一目瞭然ですが、この方角は三上山から琵琶湖にかけて、沖積平野が続くため大きく距離をとることができます。 335度で三上山の右、頂上にアンテナが見える高い山が阿星山です。それが345度、350度と角度が進むごとに左へ移動していきます。


330度


335度


340度


345度


350度

 つぎに160〜340度線上で、三上山からの距離と頂上の形の関係を見てみましょう。 下の写真は三上山を中心として、北から南への順にたどったものです。南桜からの「とんがり富士」以外はすべて山頂は円く見えます。
 念のため、 地図で現場の方位確認をしてください。



340度線上 距離8.6Km 野洲市須原付近 


340度線上 距離4.5Km 野洲市八夫付近 


340度線上 距離3.6Km 野洲市五之里付近 


▲三上山


160度線上 距離1.6Km 野洲市南桜付近(とんがり富士)


160度線上 距離4.2Km 湖南市JR石部駅付近


160度線上 距離7.1Km 湖南市東寺付近 


 念には念を入れて340度線と160度線の両端の写真を並べてみましょう。ほぼ完全な左右逆像になっているのが分かります。まさに互いに表と裏の関係です。 2枚の写真のお互いに内側、頂上すぐ下の、虫が食ったような稜線のへこみなど、鏡に映った像を見るようです。これがおそらくこの山の本来の姿なのでしょう。 とすれば、南桜の「とんがり富士」は何なのでしょう。


340度 野洲市須原        160度 湖南市東寺

 地図で見るように、以上6地点は一直線上にあります。その中で、南桜からだけが尖って見えるのです。南桜が他に比べて異なる点は何なのか。 気がつくのは三上山からの距離です。南桜だけが極端に三上山に近いのです。しかし、距離が近いと山頂は尖って見えるのでしょうか。すんなりとは納得できません。


 ■頂上の旗
 ここで一度視点を変えてみます。野洲市三上、御上神社側から見ると頂上に旗が立っているのが見えます。国道8号を栗東側から、野洲川大橋を渡るときも真正面にその旗が見えます。ただし追突事故を起こさないように。自分で運転される場合はくれぐれもご注意を。

 上は、国道8号、野洲川大橋のたもとから見た三上山です。撮影位置地図。
下の写真は、上の写真・頂上部の白枠部分をアップしたものです。頂上部の旗が小さく見えます。写真をクリックして拡大写真をご覧ください。

 国道8号側から見ると、頂上部いちばん左の最高点に旗が立っていることが分かります。その右下に小さく鳥居の姿も見えます。

 さて、もう一度南桜へもどります。
 実は、南桜からも山頂の旗が見えるのです。頂上に立っているのだから、見えて当たり前だともいえますが、それが奇妙な位置なのです。下の写真をみてください

 これは、南桜の160度線上から見た山頂部です。旗がピークからずいぶん離れた位置に見えます。ということはいま実際に見えているこのピークは、実は山頂でないということになります。

 上の地図は三上山の概念図です。山頂部がやや傾いたT字型を示し、長く伸びた縦の線が山頂から南やや東寄りに伸びています。 山頂からの稜線が南南東へ向かって伸びてきているといえばいいでしょう。これを山に近い南桜から見上げることになります。尖って見えているのは山頂でなくて、この尾根の末端なのです。

 上の写真は、私がいう三上山の正面、225度線上から見た三上山です。画面右はずれに南桜があります。右斜面がほぼ方位160度線にあたり、南桜から見るとそれを右下から見上げる形になります。頂上の右下に少しふくれた部分がありますが、これを頂上として見ているわけです。


 上の図は、三上山と南桜との位置関係を示したものです。山頂と手前の稜線とはほとんど同じ方向に見えます。手前の稜線が明らかに頂上と別の位置に見えるのなら、それを山頂と見間違うことはありませんが、これでは間違うのも無理はありません。これが手品師の腕の冴えです。



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