三上山はどちらを向いているか

 

ふるさと富士シンポジウム講演の一部です。

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 「三上山の正面はどちらですか」という質問を時々いただく。山に表裏があるわけでなし、人間誰しも自分が日常的に見ているほうが正面だと思っているのがオチだから、「さあ。どちらでしょうね」と笑って流してきた。どちらが正面だろうと、目くじらを立てるほどのことではない。ところが、今回、写真集『近江富士まんだら』を編集するに当たって、この山の姿を子細に見直してみて、それが笑って済ませることではないことに気がついた。三上山は見事な方向性を持っていた。世間一般にいわれるような単純な「円錐形の山」ではなく、人間と同じように前後を持った姿を示していた。
 地図1に見るように、雄山(主峰)の頂上から、西と南に向けて2本の尾根が伸びている。私はそれらを、それぞれ「西尾根」・「南尾根」と呼んでいる。ところで、それらの尾根を挟む外側の扇形、すなわち真西から北、東、南と回る270度については、ほぼ円錐形を示しているが、残りの90度については、どちらかというと内側にへこんだ凹面を形成している。


地図1



図1.カシミール3Dによる投影図。
三上山南方約3Kmの地点、上空約1500mあたりから見たところ。


 図1は上の地図1のいわゆる凹部の部分を、カシミール3Dによって、立体的に表現したものである。視点位置は、三上山の南方、旧東海道と名神が交差する辺りの上空である。雌山の両側に伸びる西尾根と東尾根、それに挟まれた凹部に秋の夕日が当たっているという設定である。
 主峰雄山から流れ下って、はっきりしなかった尾根筋が、雌山へ向かってぐっと鼻筋を持ち上げる。人間の顔でいえば鼻筋のように。私はこれを「鼻筋尾根」または「正面尾根」と呼んでいる。主峰に対する雌山の存在、私はこの姿を見るとき、スフィンクス像の前足や、ボンネットバスの前部を連想する。どちらも方向性を持っている。
 三上山はただ立っているのではない。南西方を向いて立っているのである。


 人間の顔は鼻筋を対称軸としている。三上山の凹部が対称形を示すとすれば、当然対称軸があるはず。そしてそれは三上山の山頂から出て南西方へ向かう線(北西方から来て、三上山の頂上を通って南西方へ向かう線)であるはずだ。(下の地図2・赤い線)


地図2


 ■地図2のように、Y軸を45度傾け、それを対称軸として、対応する2点どうしを見比べてみよう。


315度 135度





地図315/135

 315度は野洲市行畑、三上山から見て北西の地点、135度は野洲市北桜の公園墓地、同じく南東方向に当たる。両者は三上山に対して完全に正反対の位置にあるが、距離はほんのわずか135度の方が近い。そのわずかな差が、山の見え方に影響する。山に近い分、135度の点からは本体が大きく見え、雌山が本体に隠れてしまう。



300度 150度





地図300/150

 300度は野洲市行畑から野洲高校の前を通って、国道8号「三上」交差点に至る県道504号の旧道から。真正面に見える建物は日通の倉庫、右端に見える道路が県道(旧504号)である。150度は、北桜と南桜をつなぐ南北桜橋のすぐ横、大山川畔の桜緑地駐車場の近くである。
 距離的にもほぼ対称といえるし、三上山の姿も対称形を示している。細かくいえば、山頂の形が若干異なるぐらいであろうか。



285度 165度





地図285/165

 285度は野洲市三上、県道504号新道の横から、165度は県道27号「南桜」交差点のすぐ近くからである。地図を見ていただければ分かるとおり、これらの県道と対称軸とがほぼ直角に交わっており、三上山とを結ぶ線をみると、あいあい傘に見える。
 このように、位置的にも対称的だし、そこから見える三上山の姿も対称形、お互いに裏返したのではないかと思えるほどである。そして、それよりも何よりも、この横顔の美しさ。どちらから見ても完全な横顔美人である。



270度 180度





地図270/180

 270度と180度。いうまでもなく270度は三上山の真西に当たり、御上神社の森にほど近い県道504号沿いの地点である。180度は真南、文字通り南桜の田園地帯からである。ご覧の通り、山頂の形が変わってくる。270度ではとがり気味で、180度は丸く見える。
 距離的にも270度のほうが若干近く、その影響で、雄山に対して雌山が大きく見える。また、270度では雌山とA点が同じ高さに見えるが、180度では雌山のほうが高く見える。それぞれの点から雌山・A点への距離の関係である(地図1参照)。



255度 195度





地図255/195

 255度は野洲川左岸、国道8号野洲川大橋の下流、栗東市出庭。195度は野洲川右岸野洲市南桜である。川をまたいでいる分だけ、255度のほうが距離が遠くなる。結果、雄山と雌山の大きさの比がが小さくなり、雌山が雄山の稜線の中に入って見えにくくなる。それに対して195度は距離が近く、手前にある雌山が大きく、その存在を主張する。写真で見るとずいぶん形が違って見えるようだが、スケッチで見てもらうと、雌山が雄山の稜線の内側にあるか、外へ出ているかの違いだけだということがよく分かるはずである。



240度 210度





地図240/210

 対称軸を挟んで両側へ15度ずつ、ずいぶん近づいてきた。そのため、雌山の姿は雄山本体の稜線に吸収され、ほとんどその存在が認められなくなってしまう。しかし注意してみると、スケッチ図で見るように、雌山が雄山の前衛として手前に張りだしているのがよく分かる。とはいうものの、その雌山は、240度から見た場合は右へ、210度からは左へ偏って見える。



225度



地図225

 225度、対称軸上の点である。雌山とA点とが並ぶように手前に張り出し、雄山本体とほぼ相似形に重なって見える。写真では分かりにくいが、正面尾根(鼻筋尾根)が雄山山頂から雌山に向かって下ってくる。恐ろしいばかりの対称性である。
 そしてさらに、ことは三上山本体だけにとどまらない。目を両側へ広げてみると、下の写真に見るように、右大臣、左大臣よろしく、天山・妙光寺山がこれまた対称的に控えている。これが自然の創造物かとただただ驚くばかりである。









カシミール3Dによる作画


正面塚

 三上山の南西、方位225度に当たるこの場所は、野洲川左岸、国道野洲川大橋の上流500mほどの地点である。栗東市グランドゴルフ場の終端にあたり、写真で見るような塚が作られている。この方位が三上山の正面に当たることから、私は勝手に、この塚を「正面塚」と呼んでいる。


以上、2006年11月、『ふるさと富士シンポジウム』での講演分。




補遺:「竜松岩場」のこと(2012年12月加筆)

 三上山の正面は、山頂から方位225度、いわゆる南西方に位置する栗東市出庭の正面塚、ここから見た姿である。これは2006年11月に行われた『ふるさと富士シンポジウム』で発表した。しかし、後ろ姿については、その時点では全く意をはらっていなかった。ちょうど希望が丘・花緑公園の方向に当たり、山地が輻輳して三上山そのものが意外と見えにくいこともあって、どうせ南西方を除く扇形の部分はとくに変化があるわけでなしと考えていた。

 ところが最近(2012年後半)になって、そんなに軽々しい問題ではないことに気がついた。実は、野洲川水系の分水界をたどっていて、花緑公園と野洲市妙光寺との境をなす尾根道が、大山川(野洲川水系)と家棟川との分水嶺であることに気がついた。そんなことがあって、その尾根道(花緑公園の案内板には北尾根縦走路とある)をたどっていて、とんでもない大穴が残っていたことに気がついたのである。
 花緑公園ふるさと館の玄関から尾根道を見ると、ほぼ真正面、最高点に近いところにあずま屋が見える。最高点を中心として、それと反対側に岩場が見える。といっても、よほど注意して見ないと肉眼での認視は難しいが。正直、私自身つい最近その存在に気がついたわけで、それまではそこに岩場があることすら知らなかった。すぐそのそばを遊歩道が通り、そこは何度も通っているにもかかわらずである。ちょっとした死角になっていたのである。

 じつはいま、この岩場を紹介するのに、あずま屋をポイントとした。これは下からよく見えるという意味で使ったわけだが、それ以外にもう一つポイントがある。「古代峠」、花緑公園の案内板では「びわ峠」と並んで、目につくポイント名である。かつての古墳のあとだが、奥壁が崩れた状態で、大きな岩のトンネルになっている。この古代峠が北尾根縦走路上に位置する。現場に立つと巨大な古代遺跡で目を見張るが、残念ながら木立に隠れて、遠くから見る限り、存在感はない。
 さてその古代峠から、遊歩道が例の展望あずま屋へ通じているが、頂上を巻くように通過し、手の届きそうなところにある岩場は全く見えない。不思議な関係である。

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 実は古代峠から展望あずま屋への遊歩道と並行してもう1本、岩場へ向かう尾根道がある。遊歩道はすぐ右下を巻いており直接は見えない。左の写真がその尾根道と岩場である。
 拡大すると見えてくるが、岩の間からにょきっと松の木が出ている。木のスタイルから、私は勝手に「竜松」と呼んでいる。この特異なスタイルが、下から見上げたときの目印になる。

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 花緑公園森林センターとわくわく学習館との間の庭から見上げた竜松である。右の方に展望あずま屋が見えるが、竜松は全く分からない。展望台の屋根の先端を水平に左へ移動させ、最高点からの下り勾配とクロスする辺りに岩場が見えてそこに立っている。拡大写真をどうぞ



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 話がくどくなった。実はこれが「竜松」の岩場から撮った写真である。実はこの竜松の位置は、図1.カシミール3Dによる投影図で、三上山の背後に見える赤い三角形の位置である。(厳密にいえば、この「竜松」の位置はピークそのままではなく、3,40mほど離れているが、三上山から後退する位置にあるから、方位的には大きな差はない)。

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 同じ岩場から見たパノラマ展望写真である。当然の理ながら、左に天山、右に妙光寺山である。三上山本体の姿は、写真225を左右逆にした形。細かくいえば正面から見たときの右肩のふくらみ(南桜から見たときの尖りの部分)がわずかに足りない。頂上から北西方向の線より、わずかに北へ振れているためだろう。参考に地図2をどうぞ。赤三角形が竜松の位置である。

補遺の補遺:城山のこと(2012年12月加筆)

 ひょんなことから、思っても見なかった竜松の岩場が見つかった。となると人間欲が出る。もっといいポイントがありはしないか。探してみると城山があるじゃないか。希望が丘芝生ランドの北に見える傾いた台形の山である。地図を見て驚いた。なんと対称軸からはずれることごくわずか。精密な測量機器を持つわけでもない素人が考えること、ほぼ線上といってもいいぐらいである。地図2の赤線の北東端のすぐ近くにある286mの水準点、そこが城山の頂上である)。
 10年ほど昔、さんさん会をやっていたころ、会員のOさんが挑戦した。次の例会でいうには、「城山はきつかった」。それを聞いたからではないが、何となくそのまま手づかずになっていた。これは一発そのきついのをやらねばならないかと思っているときに、写真仲間のMさんが、ブログで国道8号の小堤から登ってきたとアップした。聞いてみると、「希望が丘から登るよりは楽だ」という。早速連れて行ってもらった。聞くと見るとは大違い、ややこしいルートで1人では迷ったかな。Mさんは4,5回、挑戦の結果だという。なるほど、ことは一朝一夕には成らず。

写真拡大

 城山の頂上から見たところである。Oさんの写真もこんなんだった。そういえば三上山の下に希望が丘の駐車場が写っていた(三角形に見える)。木が茂って苦しいが、とにかく見える。左肩のふくらみ(正面から見れば右肩)などは、竜松よりははるかに忠実。、

 左右の見通しが苦しい。左は右へ寄って、右は左へ寄って、その間の位置の差3mぐらいだったか。それを強引にくっつけた。写真225の左右逆像にはなっているようだ。城山の標高286m。「山は高きから見よ」という。正面から見るよりは高さが感じられるのも当然の理である。



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